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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「それでは」

と木下さんも満足のようだった。

堀尾君は悉皆好い心持になって社から出た。家へ帰りつくと、玄関に道子さんの靴を認めて、

「お帰り!」

と大声で調子づいた。

「まあ!」

と道子さんが出迎えて、

「お帰りなさいまし」

と赤らんだ。

「新家庭のようですね」

「まあ!」

「ハッハヽヽ」

「何うでございましたの?」

「定りました」

「嬉しい」

「喧嘩御免です」

「はあ」

「ハッハヽヽ」

と堀尾君は上機嫌だった。

「喧嘩何?」

「いや、明日から出勤です」

「結構でございましたわね」

「編輯の方です」

「新聞なら無論編輯の方でございましょう」

「いや、営業ってのもあるんです」

「俸給はお幾ら?」

と道子さんは勘定高く早速問題にした。

「先方委せにして来ました」

「その方が宜うございますわ。余計戴けるかも知れませんから」

「慾張っているんですね」

「オホヽヽ」

「僕は唯でも宜いんです」

「唯じゃ張合がありませんわ」

「婆や、婆や、お前も喜んでおくれ」

と堀尾君は得意だった。

「はい」

「漸くありついたんだから喜んでおくれ」

「はい/\」

「これは張合がないぞ」

「大学者ですもの。当り前じゃございませんか? ねえ、お嬢さん」