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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「困ったね」

「ハッハヽヽ」

と堀尾君は得意だった。悌四郎君は高商卒業間際に現在の細君を見初めて煩悶の極に達した時、正晴君に一方ならぬ手数をかけている。正晴君と旧師岡村さんのお蔭で今日の円満な家庭がある。

「斯ういう時に何とか骨を折らなければ、義理が悪いんだけれど」

「冗談だよ、君」

「実際の話、僕のような下っ端から持ち出しても問題にならないんだ」

「分っているよ」

「僕、岡村先生のところへ行って相談して来ようか?」

「宜いよ。心配をかけるばかりだ」

「しかし何処にも心当りはないんだろう?」

「ないけれど、その中には何うにかなるさ。世間は広いよ。○○紡績ばかりが会社じゃない」

「君は僕と違って生活に困らないんだから、もっと性に合うところをゆっくり捜すんだね」

「うむ」

「尤も伝票をつけるのが嫌いだなんて贅沢を言っていたんじゃ会社は駄目だよ」

「伝票を卒業すると帳簿だそうだけれど、帳簿なんてものは見るのも嫌いだ」

「それじゃ仕方がないね」

「算盤も嫌いだ。あんな無味乾燥なものはない」

「一層のこと方面を更えて先生になっちゃ何うだい? 先生なら帳簿も伝票もつけずに済む」

と悌四郎君は至って平凡な献策しか出来なかった。