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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
「僕は何にも分らないんですから」
と堀尾君は二人の指導を仰ぐ積りだった。
「僕達だって駄目です。何にも分りません」
「そんなことはありませんよ。有らゆる意味に於て先輩ですもの」
「いゝや」
「もう先輩になったのかなあ! 驚いたね」
と三輪君も自分に感心しているところを見ると、余り頼みになる先輩でもないようだった。
入社してから約半月、堀尾君は未だこれという失策がない。尤もこれという仕事もなかった。中央気象台へ晩秋の天候について某博士の談話を取りに行ったのが一回、京橋あたりで水道の鉄管が破れて往来が水になった時駈けて行ったのが一回、余他は皆宴会で、これが七八回もあった。一日置き以上だった。
「月給が安い丈けに楽な商売だ」
とも思った。
「部長が腸胃は丈夫ですかと訊きましたが、これだったんですね。宴会のことだったんですよ」
と三輪君に話した。その三輪君も芳野君も他の連中も常備のものは毎晩のように誰か彼か宴会へ出る。社会部へは種々の団体から宣伝的集会の招待状が部長宛で舞い込む。思想善導神仏耶同盟発会式なぞという小むずかしいのは失敬しても構わないが、会社や商店からのは広告部との関係があるから捨て置けない。