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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

と玉男君は弟の顔を持て余した。

堀尾君は頻りに冷した上、濡れ手拭を載せて寝たが、翌朝も依然腫れていた。そのまゝの顔で出勤すると、三輪君が早速、

「何うしたんだい?」

と目を見張った。

「馬鹿な目に会ったよ?」

「喧嘩をしたね?」

「うむ」

「何者だい? 相手は」

「巷間無頼の徒さ」

と堀尾君は好ましくない物語を余儀なくされた。

昼頃、亀田さんが出勤して、

「堀尾君」

と呼んだ。

「はあ」

「昨夜の火事は好く出来たよ」

「はあ」

「何うしたんだい? その目は」

「喧嘩をしました」

「火事場でか?」

「いや、帰り途でした」

と堀尾君は又顔の説明をしなければならなかった。

「ふうむ。これが昨夜分っていたら使えたのになあ」

と亀田さんは残念がったが、それは冗談で、

「もう帰り給え。何とかして明日までにその腫れを引かせないといけない。見合の写真と違っているなんてお嫁さんが苦情を言い出すと大変だ。仕事の方はもう宜い」

と大いに同情してくれた。

堀尾君は明日の支度もある。お言葉に甘えて直ぐ引き取った。家へ帰って幾度鏡を見たか知れない。その中に両親と野口村長が着いた。

「正晴さん、怺え切れないで到頭やって来ましたよ」