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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

と道子さんは奥田君に注意すると共に堀尾君を睨んだ。

「拭いても拭いても出る」

「額から流れていますわ」

「この二三日メッキリ暑くなったよ」

と堀尾君は団扇で煽いでやった。

「いや、もうソロ/\出るところを、努めて長く入っていたものだからさ」

「え?」

「ハッハヽヽヽ」

と奥田君は湯上りの赤ら顔をタオルで拭きながら、一寸急所を突いた積りだった。好人物ながら、昨今は堀尾君が自分よりも妹の為めに訪ねて来ることを知っている。しかしそれを不快に思うのではない。素より自分も進んで纒めてやった縁談だ。

間もなく堀尾君は、

「それじゃ何うしても寄って貰えないんだね。仕方がない」

と諦めて、

「しかしこの際だから、特別をもって堪忍してやる」

と聊か酬いた。

「何だい? この際ってのは」

「これってこともないけれど、頻りに急ぐからさ」

「実際今度は一刻を争うんだ」

「この際ね」

「何の際だい?」

「実際」

「うまく誤魔化したね」

「ハッハヽ」

「君の方から出掛けて来ちゃ何うだい? 去年の続きだ」

と奥田君は当然のことゝして誘い始めた。

「さあ」

「いらっしゃいよ、堀尾さん」

と道子さんはもうお約束なのに、兄さんの手前、体裁を繕った。