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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「何あに」

「いや、着々とやっているよ。去年は屋根から飛び下りたり。ハッハヽ」

「大きな声を出すなよ」

「ハッハヽヽ。大いにやっていらあ」

と好人物の間瀬君は動もすると周囲を忘却する。

二人は神戸あたりまで話し続けた。それから寝た。堀尾君は時折目を覚ましたが、その都度間瀬君が眠っているので、

「能く寝る男だ」

と思いながら、自分も努めて眠った。間瀬君も目が覚めると、堀尾君を見返るが、いつも眠っているので、

「能く寝る奴だ」

と負けない気になって又目を閉じた。それで夜が明けた時、

「君は能く寝たね」

「君こそ正体なかったよ」

と双方確信していた。

堀尾君は東京駅から本郷の下宿へ駈けつけて荷物を置くと直ぐに西本教授を訪れた。先生も矢張り○高出だ。その縁故から時折伺って、教室以外の親みがある。堀尾君は電報のお礼を述べると共に、

「旅行中で後れましたが、如何でございましょうか?」

と緊張した。

「そんなに急ぐこともなかったんだよ」

「はあ」

「保留してあるから大丈夫だ。しかし直ぐ行って見給え」

「何処ですか?」

「○○紡績さ」

「はゝあ」

「一流会社だよ」

「はあ」

「実は妻の親父があすこに勤めているものだから、この間会った時、君に頼まれていたことを思い出して話したら、一人ぐらいは何うにでもなるから見込のある男なら寄越してくれと言うんだ」