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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「君は何でも僕より一足先だね。就職も結婚も第二世も」

と堀尾君はむずかしいことを言いながら赤ん坊の顔を覗いた。

「君も口が定ったんだから、もう間があるまい?」

「ソロ/\家を探しているんだよ。この辺にないかね?」

「さあ。ないこともなかろう」

「一つ心掛けて置いてくれ給え」

「宜いとも。しかし幾らぐらい出す積りだい?」

「金に糸目はつけない。世帯を持てば何うせ五十五円じゃ足りないんだ」

「いや、然ういう料簡じゃ駄目だよ。会社員てものは兎に角収入以内でやって行かないと上の信用がつかない」

「五十五円でやって行けるだろうか?」

「行けるとも」

「この家は幾らだい?」

「十五円だったが、最近二円上げると言って来たから、頑張っているところだ」

「しかし新しい上に庭が広いんだから、十七円の値打はあるだろう?」

「あるから入っているのさ」

「ひどい奴だな」

「お嫁さんはいつ来るんだい?」

「未だ分らない。お互同志では十月と見当をつけているんだけれど」

「定っているんだから、早い方が宜いよ。一日でも使い徳だ」

と悌四郎君は何処までも実利主義だ。

日曜毎に一つ宛訪問を果して、月末の日曜は間瀬君の新家庭だった。