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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

学校で相応頭を悩ましたものは経済政策でも銀行論でも何の足しにもなりません。こゝに来て役に立つのは予科の時習った簿記丈けです」

「僕はまだひどい。小学校で習った算術丈けです。それも加減乗除丈けです」

「ハッハヽヽ」

「これじゃ人間が馬鹿になりますね」

「二三年馬鹿になれというのが鳧さんの御教訓ですよ」

「はヽあ。然うですか?」

「仕方ありませんよ」

「楽には楽ですな。馬鹿になるには些っとも努力が要りませんから」

と堀尾君は共鳴者があったので、聊か意を強うした。

不平を言うものは本当に仕事をしていない。今まで失策った社員は大抵それである。豈戒めざるべけんやというのが鳧さんの訓諭の一節で、堀尾君は正にそれに当っていた。数日後、

「堀尾さんというお方」

と人事課の給仕が呼びに来た。

「僕だよ」

と堀尾君は元気好く立って行って、鳧三平さんの面前へ出頭した。

「かけ給え」

と鳧さんが椅子へ請じた。

「何か御用でございますか?」

と腰を下した堀尾君は既に予感があった。

「他のことでもないが、君の将来の為めに一寸御注意申上げて置きたいと思って」

「はあ」

「昨日給仕に君の紙屑籠を掃除させたら、伝票の書き潰しが十五枚出て来た」