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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

難なく取っ捉えて、ハッハヽヽ」

「何うした?」

「僕は既に胸中窃かに決するところがあったんだ」

「何を?」

「怪我をする決心さ。その日立つんで、支度をしていたが、何うも別れが惜しい。前の晩奥田君が引き止めたのに、キッパリ断った後だから、今更延す口実がないんだ。窮余の一策、即ち足を踏み辷らして、あッと言いさま、庭へ飛び下りた」

「成程」

「美事右の足首を挫いて、全治一週間乃至十日間という大怪我さ」

「親不孝な奴だなあ」

「しかし見識上仕方がない」

「怪我をするのが見識かい?」

「然うさ。怪我をすれば不可抗力で出発が延ばせる」

「斯ういうのに見込まれちゃ敵わない。当然の権利として道子さんに介抱して貰ったんだろう?」

「うむ。捉えてくれと言った責任がある。大切にしてくれたよ」

「その中に情意投合したんだね」

「さあ。お互に憎からず思うようになったのさ」

「僕はもう失敬する」

「まあ宜いじゃないか?」

と堀尾君は引き止めた。

「真面目腐って、手放しはひどいよ」

「実際だもの」

「その通りだからね」

「君が所望したからさ。ロマンスといえば、これぐらいのものさ。僕のことだから、何うせ荒い」

「奥田君は君の策に気がつかなかったのかい?」