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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「犬?」

「へえ」

「犬なら他人じゃあるまい」

「人間じゃございませんが、六兵衛にそっくりそのまゝ生写しですから、尚おのこと他人の空似でございましょう。下顎が上顎よりも出っ張っていて、身体まで真っ四角でございます」

「それはブル・ドッグって奴だ。成程、六兵衛に似ているかも知れない」

と堀尾君は英国産の猛犬と水車場の親爺を頭の中で想い合せて見た。

「名前まで同じじゃございませんか?」

「違うよ。ブル・ドッグだ」

「六兵衛でございましょう?」

「ブル・ドッグ」

「六兵衛。似ていますよ」

とこの婆やは片仮名の西洋名前が不得手だ。アレキサンダーも言えない。アレさんと呼んでいる。

「それじゃ六兵衛にして置くさ」

「その六兵衛でございますよ。村の六兵衛は力自慢で大酒を飲む丈けですが、こゝの六兵衛は困りものでございます」

「何うして?」

「家のアレさんを咬みに来ます」

「何処の犬だね?」

「存じませんが、何れこの近所のでございましょう。毎朝十時というと、好い若いものが紐で引いて通ります。近所界隈の犬を苛めて歩くのが商売ですから敵いません」

「ふうむ」

「今日も門へ入って来て、アレさんを庭へ追い込みました」