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にせもの

贋物

葛西 善蔵

「早稲田文学」1917(大正6)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页

青空文庫

亡霊といっても他人の亡霊にではないが、僕自身の亡霊には僕はたびたび出会したよ。……お前にはそんな経験はあるまい?」

耕吉はまじめな顔して言った。それはこの二年ばかし以来のことだが、彼は持病の気管支と貧乏から、最も恐れている冬が来ると、しばしばこの亡霊に襲われたと言うのだ。彼は家を追われた病犬のように惨めに生きていたというのだ。そして下宿へも帰れずに公園の中をうろついているとか、またはケチな一夜の歓楽を買おうなどと寒い夜更けに俥にも乗れずに歩いている時とか、そういったような時に、よくその亡霊に出会したというのであった。

「……そんな場合の予感はあるね。変にこう身体がぞくぞくしてくるんで、『お出でなすったな』と思っていると、背後から左りの肩越しに、白い霧のようなものがすうっと冷たく顔を掠めて通り過ぎるのだ。俺は膝頭をがたがた慄わしながら、『やっぱし苦しいと見えて、また出やがったよ』と、泣笑いしたい気持で呟くのだ。僕は僕の亡霊が、僕の虐待に堪えかねては、時々本体から脱けでるものと信じていたんだからね」

「そうですかねえ。そんなこともあるものですかねえ。……何しろ早く書くといいですねえ」