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にせもの
贋物
葛西 善蔵
「早稲田文学」1917(大正6)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页
僕もせめて三十円くらいの収入があるようになったら、お前も商売を廃めて、皆でいっしょに暮すがなあ。どうせ姨さんには子供はあるまいから、僕の子供を嬶と二人で世話するとして、お前は畠を作ったり本を読んだりするんだね。そして馬を一疋飼おうじゃないか。……お前は馬に乗れるかい?」
「乗れますとも! 僕は家で最中困った時には、馬を買って駄賃までつけたんですからね」
惣治は今に始まらぬ兄の言うことのばかばかしさに腹が立つよりも、いつになったらその創作というものができて収入の道が開けるのか、まるで雲を攫むようなことを言ってすましていられる兄の性格が、羨ましくもあり憎々しくもあるような気がされた。
「兄さんとは性分が違うというんでしょうね。僕にはとても兄さんのようには泰然としておれない。もっともそれでないと、小説なんかというものは考えられまいからなあ」
「そうでもないさ。僕もこのごろはほとんど睡れないんだぜ。夜は怖いからでもあるが、やはり作のことや子供らのことが心配になるんさ。僕は今亡霊という題で考えているんだがね、つまりこの二年間ばかしの生活を書こうと思っているんだ。