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あしがるほうこう

足軽奉公

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页

青空文庫

御城下を騒がしては相済まない、藤六はそう思って心をきめた。

「よろしゅうございます立退きましょう、しかしこのお金はお返し下さい、僅かながら貯えもございますから……」

そう云って餞別は断り、まだなにも知らずに不審がる汀をせきたて、支度もそこそこに城下町をたち退いていった。

妹にすべてを語ったのは、守山藩松平領へはいってからだった。汀の驚きはひじょうなものだったろう、しかし健気にもよく耐え、頬のあたりを蒼くしたがなにも云わなかった。

「選りに選って鉄之助とこうなったことは、運命というよりほかにないだろう」

かれは妹の傷心をどう慰めてよいか言葉に窮した。

「それにつけても身分が足軽ではどうしようもない、これからはなんとしても槍一筋のさむらいになるんだ、それまではおまえにも苦労をかけることだろうが、右田の家名を興すという気持で辛抱して呉れ」

「はい、汀はどんな苦労でも致します、ですからどうぞ」

汀は涙を湛えた眼でひたと兄を見あげた。

岩代から下野のくにへ入ったのが夏七月、それから常陸へまわり、上野のくにから江戸へ着いたのが秋九月であった。江戸には霜月までいたが、「どんな幸運でも転げている」