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あしがるほうこう
足軽奉公
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页
「まったく飴屋の爺さんは幸福人だよ」
と、みんなが一斉にそっちへふり向いた。
「……いつどこで逢っても眉ひとつ蹙めていたことがない、愚痴をこぼすではなし泣言を言うではなし」
「爺さん、なんとか云わないかね」
と、古蚊帳買いの庄さくが云った。
「……どうしたらおまえさんのようにそう安気でいられるか、みんなあやかりたがっているぜ」
「そんなことはないのさ」
老人はいつものなごやかな調子で答えた。
「……わたしのような者にあやからないでも、みんなそれぞれ結構にやっているじゃあないか、まあ考えてみなされ、こうして四五日も雨に降られながら、暖かい炉端にながくなって、茶菓子や酒肴の贅沢こそできまいが、時には天下様の評判もするし、好き勝手な世間ばなしや愚痴が云っていられる、決してこれがやり切れないという暮しではないと思うがね」
「それは爺さんにはもう慾というものがないからそんなことを云えるだろうが、おれたちはまだこんなしがない渡世で終ろうとは思わない、みんなもうひと花咲かせようという気持だから、そこは爺さんとおれたちとで違うんだよ」
「……そうだとすれば」
と、老人は微笑しながら云った。