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あしがるほうこう

足軽奉公

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页

青空文庫

――三春ももう晩秋であろう、汀はふと遠い故郷を偲んだ、――横井さまはどうあそばしておいでか。妹のそういう思いは藤六にもすぐ察しられた、かれは寂しげな汀の眉を見、心をうたれてそっと外向いた。

忠秋からは、かくべつ難題が出るようなこともなく、冬が来て、雪の降る日々となった。そして、師走の五日のことである。

「……今日はお祝い日でございますから、お早くお帰りあそばせ、お支度をしてお待ち申しております」

出がけに妹からそう云われて、藤六はああもう極月の五日かと思い、

「昏れる前に戻るから」

と云って城へのぼった。

朝は晴れていた空が、午すぎる頃からまた雪が降りだし、それに風が加わって吹雪になった。……御用をしまったのは定めの四時で、もうあたりは黄昏れかかっていた、風はやんだがこのあたりには珍しく、踵を埋めるほど積ってなお降りしきっているし、骨まで凍えるかと思うほど冷える夕べだった。足軽長屋のわが住居へ帰ってみると、もう仄暗いのに燈が点いていない、はいってみると汀は留守だった、隣へ声をかけると女房が顔をだして、

「おや、まだお帰りになりませんか、もう半刻も前でしたか、買物にといっておでかけでしたがね」