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あしがるほうこう

足軽奉公

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页

青空文庫

と、訝しそうにしている、それではおっつけ帰るであろうと、燈をいれたり、火桶の埋火を掻きおこしたりしていた。……しかしそのうちにとっぷりと昏れてしまったのに、やはり汀は戻って来ない、藤六はにわかに不安になってきた。そして門口へ出たところへ、おなじ長屋の奥にいる足軽の老人が来かかって、

「よく降りますな」

と声をかけ、ゆき過ぎようとしてふと立止まった。

「……ときにお妹さんは帰っておいでかな」

「いやまだ戻らぬので案じているのですが」

「お帰りがない」

老人はふむと首を傾げた。

「……それではやっぱりそうかも知れぬ」

「ご老人なにかご存じですか」

「いや確かとは云い切れぬが、一刻ほどまえ、御老職の菅谷さまへ使にまいったとき、お浜館の前で会ったのが、たしかお妹さんだったように思えるのでな」

「お浜館……」

藤六はぎょっとした。

「してそのとき妹はどうしておりましたか」

「お屋形の中から二名ほど人が出て来て、通りかかる汀どのになにやら申しかけ、手を取って御門の中にひき入れるのを見た、……お妹さんではないかも知れぬが、もしやすると」

「それはよいことをお知らせ下すった、ともかくみにまいってみましょう」