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あしがるほうこう

足軽奉公

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页

青空文庫

「まいった、これまでだ右田」

という声と共に、鉄之助がどっと横倒しになった。

「きさま……」

と肩で息をつきながら鉄之助は感に堪えたという声で云った。

「……きさま強いなあ右田、浪々しても腕は鈍るまいと思ったが、あの頃よりはまた一段じゃないか、口惜しいがおれはまだ及ばない、残念だ」

「立て……」

藤六はしずかに答えた。

「勝負はこれからだ、もういちど立て」

「その必要はない」

忠秋が座敷からそう呼びかけた。

「……横井はそのほうに大切な知らせを持って来ている、勝負は余の所望だ、もうよいから上って坐れ、改めて一盞とらすぞ」

藤六はちょっと解せなかった。しかし汀が出て来たし、鉄之助も笑いながら、いかにも仔細ありげに促すので、ともかくも洗足をし、衣類の雪を払って、座敷の下へにじり進んだ。忠秋は面白そうに藤六の前へ酒肴を据えさせ、汀にむかって、

「兄の給仕をしてやれ」

と命じた。

鉄之助はそこで容を正して一別以来の挨拶を述べ、夏に故郷を出てから、この高島へ来るまでのあらましを語った、高島城下へはいったのは三日まえのことで、槍を担ぎ、雪泥の道を躄の足で歩き悩んでいる恰好を忠秋が認め、例の気性でおのれの館へ呼びあげたうえ、右田藤六という者を尋ねまわっている事情まで訊きだすほど親しくなった。