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あしがるほうこう

足軽奉公

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1945(昭和20)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,949 字 · 28 页

青空文庫

そのはなしは忠秋にすぐ新参足軽を思いださせ、汀を見かけたことから、今宵のいたずらを仕組んだのだという、そこまで話して、

「さて」

と、鉄之助は膝を直した。

「そこもとを尋ねて来たわけを云おう、実は藩家からお召返しの上意がさがったのだ」

「……お召返し」

藤六は眼を瞠った。

「おれの父が老衰の故を以て師範を隠退することになり、そこもとを後任として推挙した、老職の中にもそこもとの人物槍筋を認めている方が多いので、とりあえず槍術師範助役としてお召返しときまったのだ、右田……いよいよそこもとの槍が世に出たぞ」

「待って呉れ」

藤六はしずかに面をあげた。

「……御師範の御好志も、御家中皆々の寛仁なお扱いも、胆に銘じて忝ない、千万ありがたく存ずるが、おれは三春へは帰らぬつもりだ」

「なに、帰らぬ、それはまたどうしてだ」

「おれは自分を恥じる気持でいっぱいだ、おれにはお召返しをお受けする資格はない」

藤六は苦衷を訴えるように云った。

「あのときそこもとと争いになった原因は、おれの見苦しい傲慢からだった、なまじ少しばかり槍が遣えるようになると、当然おのれが士分に成ってもいいように思いあがり、足軽という身分に不満を感じだした。