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てんき

転機

伊藤 野枝

「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页

青空文庫

水責めに遇っているのですよ。」

「え、どうしてですか?」

「話が少しあとさきになりますが、谷中村というものは、今日ではもうないことになっているんです。旧谷中村は全部堤防で囲まれた貯水池になっているんです。いいかげんな話では解らないでしょうけれど。」

こういってM氏はまず鉱毒問題というものから話しはじめた。

谷中村は栃木県の最南端の、茨城と群馬と接近した土地で、渡良瀬という利根の支流の沿岸の村なのであるが、その渡良瀬の水源が足尾の銅山地方にあるので、銅山の鉱毒が渡良瀬川に流れ込んで、沿岸の土地に非常な被害を及ぼした事がある。それが問題となって、長い間物議の種になっていたが、政府の仲介で鉱業主と被害民の間に妥協が成立して、ひとまずそれは片附いたのだ。しかし水源地の銅山の樹が濫伐されたために、年々洪水の被害が絶えないのと、その洪水のたびに、やはり鉱毒が濁水と一緒に流れ込んでくるので、鉱毒問題の余炎がとかく上りやすいので、政府ではその禍根を絶つことに腐心した。

水害の原因が水源地の濫伐にあることは勿論であるが、栃木、群馬、茨城、埼玉等の諸県にまたがるこの被害のもう一つの原因は、利根の河水の停滞ということにもあった。