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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
「ちょっとお伺いいたしますが、谷中村へ行くのには、この道をゆくのでしょうか?」
ちょうどその窪地の中の道から、土手に上がってきた男を待って、私は聞いた。その男もまた、不思議そうに、私達を見上げ見下ろしながら、谷中村はもう十年も前から廃止になって沼になっているが、残っている家が少々はない事もないけれど、とても行ったところで分るまいといいながら、それでも、そこはこの土手のもう一つ向うになるのだから、土手の蔭の橋の傍で聞けと教えてくれた。けれど彼はなお、私達に、とても行ったところで仕方がないというような口吻で、残った人達を尋ねる事の困難を説明した。
窪地の中の道の左右は、まばらに葦が生えてはいるが、それが普通の耕地であった事は一と目に肯かれる。細い畔道や、田の間の小溝が、ありしままの姿で残っている。しかし、この新らしい高い堤防が役立つ時には、それも新らしい一大貯水池の水底に葬り去られてしまうのであろう。人々はそんなかかわりのないことは考えてもみないというような顔をして、坦々と踏みならされた道を歩いてゆく。
土手の蔭は、教えられたとおりに河になっていて舟橋が架けられてあった。