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てんき

転機

伊藤 野枝

「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页

青空文庫

しかし、私はそれで充分だ。僅かに頭をもたげた私のセンティメントは、本当のものを見せてくれたのだ。

「何しに来た?」

もう私はそういってとがめられることはない。一人で来たら私のセンティメントはもっと長く私を捕えたろう。もっと惨めに私を圧迫したろう。だが、もう充分だ。これ以上に私は何を感ずる必要があろう。私はしっかり山岡の手につかまった。

ようやくに、目指すS青年の家を囲む木立がすぐ右手に近づいた。木立の中の藁屋根がはっきり見え出した時には、沼の中の景色もやや違ってきていた。木立はまだ他に二つ三つと飛び飛びにあった。蘆間の其処此処に真黒な土が珍らしく小高く盛り上げられて、青い麦の芽や、菜の葉などが、生々と培われてある。

道の曲り角まで来ると、先に歩いていた連れの男が、遠くから、そこから行けというように手を動かしている。見ると沼の中に降りる細い道がついている。土手の下まで降りて見ると、沼の中には道らしいものは何にもない。蘆はその辺には生えてはいないが、足跡のついた泥地が洲のように所々高くなっているきりで、他とは変わりのない水たまりばかりであった。

「あら、道がないじゃありませんか。