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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
けれど私達の立っている処と、その畑の間には小さな流れがあった。私には到底それが渡れそうにもないので、当惑しきっているのを見ると、間近にいた年を老った男は、すぐに私に背を貸して渡してくれた。私達はお礼をいって、その畑を通りぬけて、再びまた沼地にはいった。畑に立っていた二人の若い女が、私の姿をじっと見ていた。私はそれを見ると気恥ずかしさでいっぱいになった。柔らかに私の体を包んでいる袖の長い着物が、その時ほど恥ずかしくきまりの悪かったことはなかった。足だけは泥まみれになっていても、こんなにも自分が意気地なく見えたことはなかった。甲斐々々しい女達の目には、小さな流れ一つにも行き悩んだ意気地のない女の姿がどんなに惨めにおかしく見えたろう? だが一体どうしたことだろう? まさかにあの新聞の記事があとかたもない嘘とは思えないが、今日を限りに立ち退きを請求されている人達が、悠々と落ちついて、畑を耕やして麦を播いているというのは、どういう考えなのだろう? やはり、どうしてもこの土地を去らない決心でいるのであろうか。私はひとりでそんなことを考えながら、山岡には一二間も後れながら、今度は前よりもさらに深い、膝までも来る蘆間の泥水の中を、ともすれば重心を失いそうになる体を、一と足ずつにようやくに運んでゆくのであった。