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てんき
転機
伊藤 野枝
「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页
Sにはそれは本当に一生懸命な仕事でなくてはならなかった。
「堤防を切られて水に浸っているのだといいますね。」
「なあに、家のある処はみんな地面がずっと他よりは高くなっていますから、少々の水なら決して浸るような事はありませんよ。Sの家の地面なんかは、他の家から見るとまた一段と高くなっていますから、他は少々浸っても大丈夫なくらいです。お出でになれば分ります。」
彼はさも、何でもないことを大げさに信じている私達を笑うように、また私達をそう信じさせる村民に反感をもってでもいるように、苦い顔をしていい切ると、またスタスタ先になって歩き出した。
いつのまにか、行く手に横たわった長い堤防に私達は近づいていた。
「あ、あの堤防だ、橋番の奴、すぐそこのような事をいったが、ずいぶんあるね。でもよかった、こういう道じゃ、うまくあんな男にぶつかったからいいようなものの、それでないと困るね。」
「でも、よくうまく知った人に遇ったものね、本当に助かったわ。」
二人はやっと思いがけない案内者ができたのに安心して、少しおくれて歩きながら、そんな話をした。
「これがずっと元の谷中です。」
土手に上がった時、男はそこに立ち止まって、前に拡がった沼地を指していった。