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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

その時表を電車が通って、次の言葉は聞えなかったが、電車の響きが静まると、わりにはっきりと、想像も手伝って、彼等の会話が聞き取られた。

A――「好きな部類にはいるんだと、僕は思うね。」

B――「僕は嫌いな方にはいるんだと思うよ。」

C――「なあに、両方さ。右のプロフィルが好きな方面、左のプロフィルが嫌いな方面、なんてことになるに違いないよ。惚れてはいるが意地もあるってわけさ。」

M――「僕には一体あの事件がよく分らないよ。細君を追ん出してまでおいて、どうしてS子と一緒にならなかったんだろう?」

C――「そりゃあ君、恋のいきさつなんか凡人には解せないよ。」

N――「兎に角一風変った女だね。好悪の群像なんてでたらめだろうが、絵を習ってるというのは本当なのか。」

C――「本当さ。松本氏の画塾ということまでつきとめたんだ。好悪の群像だって今に実現するよ。何しろこんな所にいて、そして客に対して、好悪の態度をあんなに露骨に示すんだからね。画家になりきったら、好悪の群像くらい訳はないさ。君達の顔だってその中に入れられるかも知れないぜ。」

A――「そんなら、君子危きに近寄らずだ。