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のわき
野分
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页
……雨つづきの街はうらさびれていた、家々は鼠色の空の下に濡れしょぼれて蹲い、どの軒下も黄昏のように暗かった。狭い横丁に尾を垂れた犬が餌をあさっているのもかなしく、蓑や合羽を着た物売り商人が、重そうに荷を担ぎながら黙って道を往くさまもかなしかった。――どこへゆこう、又三郎は雨のなかに立ち止った。するとそれまでまったく忘れていたお紋の住居を思いだした。蔦萬は睨まれているからゆけない。お紋はいないだろうが、雨で藤七老人は家だろう、このあいだ酒の馳走になったままだ、色いろな理由が彼を唆しかけた。彼は辻を右へ曲って、こんどは足ばやに徳右衛門町のほうへ急いだ。
藤七は、しょんぼり莨をふかしていた。はじめちょっとけげんな顔をしたが、又三郎だということがわかると、殆んど跳びあがった。彼は紙入を老人に渡して、酒と肴をたのむと云った。藤七は手を振って拒んだ、「冗談じゃあねえ、冗談じゃあねえ」と喧嘩腰で繰り返した。
「おまえが江戸っ子ならおれも江戸っ子だ」又三郎は構わずそこへ坐った、「……いちど出したものがそうかと云って引込められるか、厭なら竪川へでも抛り込んで来てくれ」