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つげびと

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页

青空文庫

告げ人を帰したお政は、いささか気もおちついたものの、おちついた思慮が働くと、さらに別種の波瀾が胸にわく。叫哭したくてたまらなかったときに叫哭しえないで、叫哭すべき時期を経過したいまは、かなしい思いよりは、なさけなく腹立たしさにのぼせてしまった。

「あんまりだ」

こう一言叫んだお政は、客の飲み残した徳利を右手にとって、ちゃわんを左手に、二はい飲み三ばい飲み、なお四はいをついだ。お政の顔は皮膚がひきつって目がすわった。かたわらにいた松女は、子どもながら母のただならぬようすを見て、火がついたように泣きだした。

「おじいさんとこへいくんだ。おじいさんとこへいくんだ」

お政はわが子の泣くのも知らぬさまに、四はいを飲みつくし、なお五はいをつごうとする。源四郎も老人も松女のさけび泣きにおどろいてでてきた。源四郎はお政の手から酒をうばって、

「こら、なにをするんだ」

「なにもしやしません。お酒をいただいてるんです」

「酒を飲むんだって、そんな乱暴に飲んでどうする」

「あんまりです、あんまりです」

お政は泣き声にこうさけんでうつふしてしまった。松女は祖父にすがりついて、

「おかあさんをだましておくれよ、おかあさんをだましておくれよ」