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つげびと

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页

青空文庫

二

生まれが生まれだけにどことなし、人柄なところがあって、さびしい面ざしがいっそうあわれに見える。もうもう我が世はだめだとふかくあきらめて、なるままに身をも心をもまかせてしまったというふうである。それでもさすがに、ここへ移ってきた夜は、だれにいうとはなく、

「引っ越すたびに家が小さくなる」

とひとりごとをくりかえしておった。

糟谷はあければ五十七才になる。細君はそれより十一の年下とかいった。糟谷は本所へ越してきて、生活の道が確立したかというに、まだそうはいかぬらしい。

糟谷が上京以来たえず同情を寄せて、ねんごろまじわってきた、当区の畜産家西田という人が、糟谷の現状を見るにしのびないで、ついに自分の手近に越さしたのであるが、糟谷が十年住んでおった、新小川町のとにかく中流の住宅をいでて、家賃十円といういまの家へ移ってきたについては、一場の悲劇があった結果である。

二

糟谷は明治十五年ごろから、足掛け十二年のあいだ、下総種畜場の技師であった。そのころ種畜場は農商務省の所管であった。糟谷は三十になったばかり、若手の高等官として、周囲から多大の希望を寄せられていた。