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つげびと

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页

青空文庫

二

二

昼乳をしぼる刻限になった。女が若衆をおこす。細君は花前にひととおりのさしずをしてくださいというてきた。ほかのふたりの若いものは運動場の乳牛を入れにかかる。はり板をふみたてる牛の足音がバタバタ混合して聞こえる。主人も牛舎へでた。乳牛はそれぞれ馬塞にはいって、ひとりは掃除にかかる、ひとりは飼い葉にかかる。主人はここではじめて花前に会った。

五十になってもしりのおちつかない、落ちぶれはてた花前は、さだめてそぼろなふうをしているかと思いのほか、髪をみじかく刈り、ひげをきれいにそって、ズボンにチョッキもややあかぬけのしたのを着てる。白いシャツをひじまでまくり、天竺もめんのまっ白い前掛けして、かいがいしい身ごしらえだ。

主人はまずそれがおおいに気持ちよかった。花前は主人に対しても、ただ例のごとくちょっと頭をさげたばかりである。かえって主人のほうからしたしくことばをかけた。

「花前、おまえのうわさはちょいちょい聞いていたよ、こんどよくきてくれた、なにぶん頼むぞ」

花前は、はいともいわない、わずかに目であいさつしてる。主人は家の習慣とだいたいの順序とをつげて、これだけの仕事はおまえにまかせるからと命じた。