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つげびと

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页

青空文庫

三

説き聞かせ、養鶏をやれ、養豚をやれ、牛はかならず洋牛を飼えとすすめた。人望のあった糟谷の話であるから、近郷の農民はきそうて家畜を飼うた。

糟谷はこのあいだに、三里塚の一富農の長女と結婚した。いまの細君がそれである。細君の里方では、糟谷をえらい人と思いこみ、なお出世する人と信じて、この結婚を名誉と感じてむすめをとつがし、糟谷のほうでもただ良家の女ということがありがたくて、むぞうさにこの結婚は成立した。それで男も女も恋愛に関する趣味にはなんらの自覚もなかった。

精神上からみると、まことに無意味な浅薄な結婚であったけれど、世間の目から羨望の中心となり、一時近郷の話題の花であった。そして糟谷夫婦もたわいもない夢に酔うておった。

三

過渡期の時代はあまり長くはなかった。糟谷が眼前咫尺の光景にうつつをぬかしているまに、背後の時代はようしゃなく推移しておった。

札幌農学校や駒場農学校あたりから、ぞくぞくとして農学上獣医学上の新秀才がでてくる。勝島獣医学博士が駒場農学校のまさに卒業せんとする数十名の生徒をひきいて種畜場参観にこられたときは、教師はもちろん生徒にいたるまで糟谷のごときほとんど眼中になかった。