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つげびと
野菊の墓
伊藤 左千夫
伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页
兼吉は、
「わし、この気ちがいに打たれました、なぐり返そうと思っても、ひとりではとてもこの野郎にかないません、五郎さんがおさえてくれなきゃ……わし、こんな気ちがいといっしょにいるのはいやですから、ひまをいただきます」
「この若いものが、牛をたたいたから打ちました」
「わし、牛を打ったのではありません……」
主人は、まあまあとことばしずかにふたりを制した。秋のゆくというさびしいこのごろ、無分別な若ものと気ちがいとのあらそいである。主人はおぼえず身ぶるいをした。花前は平然たるもので、
「牛をたたくという法はない」
こう語勢強くいったきり、ふたたび口を開かぬ。ふたりはしきりに気ちがいなどに打たれたりなんかされて、とてもいられないとわめく。
話をまとめてみると、兼吉が尿板のうしろを通ろうとすると、一頭の牛がうしろへさがって立ってるので通れないから、ただ平手で軽く牛のしりを打ったまでなのを、牛をだいじにする花前は、兼吉がらんぼうに牛をたたいたとおこったらしい。それで例の無言で、不意にうしろから兼吉にげんこをくれた。
兼吉は、腕力では花前によりつけないから、五郎に加勢を頼んだのだ。