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つげびと

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页

青空文庫

自分は十代から花前と懇意であって、花前にはひとかたならず世話にもなったが、自分も花前のためにはそうとう以上につくした。いまのような境遇になって、だれひとりおとのうてなぐさめるものもないうちに、自分だけはたえず見舞うておった。

その自分に対して、去年会うたときには、某牛舎に寝ておって、うん安藤かといったきり、おきもしなかった。それがきょうは、意外に自分を見るとうれしそうに立ちあがって、よくきてくれたといった。じつは自分は花前はもうだめとあきらめていたところ、きょうのようすでは精神の状態が、たしかにすこしよくなってる。この家へきたときからこのくらいか、あるいはいつごろから調子がよくなったかと問うのであった。安藤は真の花前の友である。

主人は花前が近来の変化のありのままを語ったのち、今後あるいは意外の回復をみるかもしれぬと注意した。安藤はもちろん見込みがありさえすれば、すぐにも自分が引き取って治療をこころみんとの決心を語り、つづいて花前の不幸なりし十年まえの経歴を語った。

花前は麻布某所に中等の牛乳屋をしておった。畜産熱心家で見職も高く、同業間にも推重されておった。