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つげびと

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页

青空文庫

病院をでてもいく家はない。待ってる人もない。安藤が自分の家へつれて帰ったものの、慰藉のあたえようもない。花前はときどき相手かまわず、

「どうせばえいんだ」

とどなる。

安藤は手のつけようがないから、ともかくもと湯河原へつれだした。そうして自分もいっしょにひと月もおってなぐさめた。どうかして宗教にはいらしめようとこころみたが、多少理屈の頭があったから、どうしても信仰にはいることができない。破壊以前が人なみよりもあたたかい歓楽に富んでおっただけ、破壊後の悲惨が深刻であった。

自分もそうそういっしょにはおられないので帰京すると、花前はそのまま一年半もその家におった。あっただけの財をことごとく消費して、ただ帰京の汽車賃で安藤の家に帰ってきた。そのときにはたしかに精神に異状を呈しておった。なにを話してみようもなく、花前は口をきかなかった。

その後無断で安藤の家をでて、以前交際した家に乳しぼりをしておった。ようやく見つけてたずねていくと、いつのまにかいなくなる。また見つけだしてたずねると、またいなくなる。ゆくさきざきの乳屋で虐待されて、ますます本物になったらしい。