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つげびと

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页

青空文庫

ハイ一統からよろしくとのことで……」

「あ、さようでございましたか。それはそれは遠方のところをご苦労さまで……それはあのなくなったは気違いのことでしょうな」

「さようでございます。善右衛門さんからよろしくと申しましてございます」

「まことにはやご苦労さまに存じます。あの気違いも長ながとご迷惑をかけましたが、それでわたしも安心いたしました。まずどうぞおかけくださいまし」

この老人は応対のうまいというのが評判の人であったから、ふたりの使いがこの人にむかっての告げ人の口上はすこぶる大役であった。ふたりは道すがら話もせずに、腹のうちでねりにねってきたのである。どうやら見苦しくもなくあいさつがすんだので、ふたりは重荷をおろしたようである。気色のはりもゆるみ、腰のはりもゆるんで、たばこ入れに手がでる。ようやく腰をかけて時候の話もでる。

平生多弁の老人はかえって顔に不安沈鬱のくもりを宿し、あいさつもものういさまである。その気違いというはこの老人の前妻なのだ。長女お政が十二のときにまったくの精神病となったのである。いろいろ療養をつくしたが、いかんともしようがなく、いささかの理由をもって親里へ帰した。