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きんば

金歯

小川 未明

「文芸」1935(昭和10)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,108 字 · 14 页

青空文庫

な歯であるだけに、あまり朗らかな気持ちにはなれなかったのです。

「歯のないのが、かえってかみいいなんて、そういうことはありませんよ。」

母の道理に合わない言葉を、令二は、指摘しました。

「いえ、おかしな話だが、あまり金をば惜しげなく使っているので、重くて大きすぎるのです。」

「どうして、またそんなにたくさん金を使ったのだろうな。」

「まだ、金の値が上がらなかったときで、それに造った歯医者が、学校を出たばかりで細工がうまくなかったのですね。」

「そんなことが、いまの私の家のしあわせになるんですかねえ。」

「しあわせって、なんだ?」

このとき、姉は、また弟をにらみました。しかし、令二は相手にしなかった。

「お母さんは、長い間、そんなものを入れて、不自由を我慢していたんですか。」

「歯を入れた、はじめのうちは、みんなこうしたもので、なれれば具合がよくなると思っていたのです。そのうちに、不自由になれてしまって、つい不自由ということがわからなくなったのです。こんど、とれてから、はじめて、堅いものでもほかの歯でかめるので、入れ歯の不できであったことがわかったのでした。」

「じゃ、なければないで、自然がいちばんいいということになりますね。