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きんば

金歯

小川 未明

「文芸」1935(昭和10)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,108 字 · 14 页

青空文庫

それなら、その金歯を売っちまいましょう。」と、令二は、いいました。

「ばか、おまえは、お母さんから、そのお金をもらう気なの?」と、姉は、弟の方へ体をゆすりました。

「ああ、くださればもらうよ。」

「さっき、デッサンだけでいいといったじゃないか。」

「たまには、色のついている風景も描きたいんだ。」

「おまえの絵が、なにになるというのだ。」

「そういう姉さんはなにになるのか?」

「私は、さっさと街へ出て働くわよ。そして、おまえの絵は、お金になるの。」

「美しいということが、わからない人間ではしかたがないのだ。」

母親は、子供たちの話をば、じっとして、よく聞いているとも、また、よく聞いていないとも、どちらにもとられそうなようすで、だまっていました。

「ねえ、お母さん、なぜ令二を芸術家なんかにしたんです?」

せいた調子で、さき子は、おびやかすように、問いかけると、母は、

「その責任なら、死なれたお父さんにあるのだよ、家のことは、なんでもお父さんの意見できめたのだからね。ある日、お湯屋で、三助が、青い顔の坊ちゃんだが、どこかわるくはないんですか、子供のうちは、勉強などよりも体がいちばん大事ですぜといった、言葉にたいそう感心なさって、学校をやめさせてしまいなされたのだよ。