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きんば

金歯

小川 未明

「文芸」1935(昭和10)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,108 字 · 14 页

青空文庫

」

「お父さんの罪だわ。」と、さき子がいいました。

「お父さんの悪口なんかいったら、僕は、承知しない。もし、学校へいって、試験勉強ばかりしていたら、僕は、ほんとうの自然というものを、永久にわからずにしまったろうな。」

「ふん、おまえは、わかっているのか?」

「わからなくて、絵が描けるか。」

さき子は、たちまち、しんみりとした調子になって、

「令ちゃんは、これから先、どうして食っていくつもり。」と、ききました。

「絵を描いてさ、それよりほかに道がないだろう。」

令二は、さびしい笑いを顔に浮かべた。そして、なにか、遠くのものを考えるような、目つきをしました。

「令ちゃん、芸術家で、食っていかれる?」

「人をばかにするな。」

「心配だから、聞くんだわ。」

令二は、怒った感情をあらわすときは、いつも、口をとがらすのでした。

「人間が、まったく美を愛しなくなったら、その国は滅びてしまうだろう。人間に美を愛する本能がなかったら、芸術というものは、はじめから存在しないのだから。」

このとき、母親は立って、たんすの小ひきだしから、紙に包んでしまっておいた、金歯を持ってきました。

「これは、金の無垢だよ。