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こんじきのし
金色の死
谷崎 潤一郎
「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页
黙って眺めて居るうちに、私はだんだん惹き入れられて、しまいには彼の巧妙な技術と敏捷な動作とを羨むようになりました。「飛鳥の如し」と云う言葉は全く岡村君の早業を形容する為めに作られたものでしょう。………彼が地面からひらりと鉄棒へ跳び着きながら、忽ち両脚を天に冲して蝙蝠の如く倒しまにぶら下るまでの迅速さ加減は実際驚嘆に値いするもので、彼の手脚は恰も石鉄砲のゴムのように非常な勢いで虚空に伸びて行くかと思うと、直ちに弾ね返って轆轤の如く鉄棒に巻き着いて了います。その度毎に鉄棒の方が、却て鞭のような彼の体でぴたりぴたりとさも痛そうに打たれました。鉄棒が済むと今度は階段の頂辺から倒立ちをして飛び下りたり、一丈に余る竹竿を杖に庭の松の樹の梢より高く跳ね上ったり、………その Jumping の見事な有様は、誰が見ても人間業とは思われません。
「どうもお待ち遠様! 此れでようよう好い気持になった。」
こう云って私の傍に彳んだ岡村君の、肌理の細かい白い両脛には、無数の銀砂がうすい靴下を穿いたように附着して居ました。
其の晩彼は私を捕まえて、芸術と体育との関係を滔々と論じて聞かせました。