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きんぎょはしんでいた

金魚は死んでいた

大下 宇陀児

「宝石九月号」岩谷書店、1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,514 字 · 22 页

青空文庫

「いろいろですね。金銀、ニッケルやコバルトなどの化合物、そして酸やアルカリです」

「真鍮もやるのでしよう」

「ええ、もちろん……」

「その真鍮と銀のメッキではとくにどんな薬品を使いますか」

その時、中内工学士の顔色がかすかに動搖したのを、警部はすばやく気がついていた。それらの電気メッキでは、青酸加里の溶液が使用される。その予備知識があつて、ことさらに尋ねてみたのだから、自然にこちらも、注意ぶかくこの重役の態度を観察していたわけである。

工学士は、ゴクンと唾をのんだ。

そしてたばこに火をつけ、ゆつくりと、

「いけませんよ。老人の毒殺に用いられた青酸加里が、うちの工場にもあるつてことを、私の口から言わせようとしているんでしよう。ハッハッハ、たしかにあります。しよつちゆう使つていますよ。しかし、門外不出、取扱いには、十分注意していましてね。私にしても、そうみだりに持出すことはできない仕組になつているんですから」

と、平静な顔色に戻つて答えた。

五月五日夜のアリバイについて尋ねてみる。

すると当夜は、映画を観に行つたのだと答えたが、映画の題名をきくと、すぐに答えられない。