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はちのき

鉢の木

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,534 字 · 28 页

青空文庫

紋服が揃えてある、そういうものが必要だということを推察していたのだ、かれは妹の心根がいじらしくなり、眼をそらせながらしずかに身支度をした。

すっかりしたくが終ると、灯のそばへ坐って妹を呼んだ、「これへまいれ萩尾、申し聞かすことがある……」萩尾は兄の前へ坐り直し、両手を膝に面を伏せた、これからなにを云われるかということも察しているのであろう、額のあたりは蒼ざめているし、行燈の光りをうつしてほつれ毛が微かにふるえていた、「おまえにはずいぶん苦労をかけた、この三年、よくぞ貧窮の暮しに耐えて来て呉れたと思う、おれはもういちど世の花を見せてやれると信じていた、これまでの艱難を償ってやる時が来ると信じていたが、武運つたなくしてどうやらそれも仇に終るらしい、兄としてはとうとうなにもして遣ることはできなかった、どうかゆるして呉れ」「兄上さま……」「いや暫く黙って聞くがよい、おれはもう少しすると此処を出てゆく、どこへ、なんのためかということは話せない、しかしいずれにしても」そこまで云いかけて四郎兵衛はふいに口を噤んだ、深夜の道に戞々と馬蹄の音がし、それがこの家の表へ来て停った