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はちのき
鉢の木
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,534 字 · 28 页
のということまで云いだした。その言葉は四郎兵衛の自尊心を傷つけた、そしてはげしい口論になり、老人は席を蹴って帰り去ったのである。
その頃はもう売る物もなくなっていたけれど、佐伯家と縁の切れたことは朝夕の心の拠りどころを喪った感じでなんとも侘しかった、それでもまだ帰参という望みがあったので、かれは人足に出たり賃仕事をしたりして稼ぎ、萩尾も縫張り洗濯などをして、兄妹ふたりどうやら粥を啜って来たのである。すると今年(慶長五年)の六月のことだったが、徳川家康が会津の上杉氏討伐の軍をおこしたという風評が伝わってきた、……いよいよ時節だ、かれは躍りあがるような気持でそう思った、出陣となれば帰参のゆるしが出るに違いない、まわりからも執成して呉れるであろう、吉報はいつ来るか、今日か、明日か。立ちつ居つ待ったがなんの知らせもない、日は経ってゆき、東へ征く諸将の名が次ぎ次ぎと伝わって来る、かれは風説を耳にするたびに元忠の膝下へ駆けつけようと思った、幾たびそう決心したことだろう、けれどもあれほど堅く約束して呉れた旧友がいるのに、今もって知らせのない