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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

ああ! 今日のためにこそこの材料を集めたのではなかったか。今日のためにこそ担架の演習や救護の講義を繰り返したのではなかったか。何もかも大失敗だ。脚をもがれた蚊のように、はさみを取られた蟹にも似て、私たちはこれから徒手空拳、この幾万とも数知れぬ負傷者の前に立たされる。まったくの原始医学だ。この知識と、この愛と、この腕とで、ただそれだけで生命を救わねばならぬのである。私は悄然と階段を登り、再び玄関前の広場に突っ立って、全般の指揮をとることにした。

それでも私のまわりに医員と学生と看護婦と二十人ばかり踏みとどまって最後の救出作業に従った。二人組は次から次へと部屋に倒れている患者を手運びで救い出してきた。それは皆、玄関横のコークス置き場に並べられた。火の粉の落ちぬのは今ここだけだった。私はその真ん中にただのっそりと立っていた。火勢はいよいよ烈しく、空は黒煙渦を巻き、また例の魔雲も火の色を反映して、赤くあやしく輝いている。なんだか心細い情景である。

「学長先生をお救いいたしました」友清君の声にふり返ると、玄関に真っ赤な風呂敷をおんぶしている。駆けつけてみると、真っ赤なものは角尾先生だった。