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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

と教授はいわれた。またも何回か私の足先はぴんと突っ張り、手は草の根を握りしめなければならなかった。けれども手術は手際よく成功した。「永井君、大丈夫だ。血は止まったよ」そういって教授は立ち上がられた。私はお礼を申し上げた。そして全身が急にだるくなり、気が遠くなっていった。

日は落ちた。地上は炎々と未だ燃えさかり、空一面にひろがった魔雲は赤くあやしく輝いている。西のほう稲佐山の上のみがわずかに空をすかせて、三日月が細く鋭く覗いている。高南病棟の上の谷間に男組は板を拾い藁を集めて仮小屋を造り、女組は鉄兜で南瓜を煮て夕餉の支度をととのえた。長井君と田島君とが県庁まで非常食糧を貰いに出かけていった。畑の中に南瓜の煮える火を囲んで、私たちは小さな輪をつくっていた。わずかに生き残った者のこの小さな輪よ。お互いに顔を見合わせて、この輪をつくるこのわずかな人間同士こそ底知れぬ因縁の絆に結ばれていたにちがいないという気がした。私たちはお互いに手をとって固く握り合ってじっとしていた。もう暗くなった上の森から「担架来てください」「誰か注射に来てください」と哀れに叫んでいる。