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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

それにはね、あなたにはまだ云ってないけれど、博文館の本田という男の話によると、春泥がとんがり帽に道化服という変な姿で、浅草公園にうろついていたというんだ。しかも、それが広告屋で聞いて見ると、公園の浮浪人だったとしか考えられないんだ。春泥が浅草公園の浮浪人の中に混っていたなんて、まるでスチブンソンの『ジーキル博士とハイド』みたいじゃないか。僕はそこへ気づいて、春泥の著書の中から、似た様なのを探して見ると、あなたも知って居るでしょう、あいつが行衛不明になるすぐ前に書いた『パノラマ国』という長篇と、それよりは前の作の『一人二役』という短篇と、二つもあるのです。それを読むと、あいつが『ジーキル博士』式なやり方に、どんなに魅力を感じていたか、よく分るのだ。つまり、一人でいながら、二人の人物にばけることにね」

「あたし怖いわ」静子はしっかり私の手を握りしめて云った「あなたの話し方、気味が悪いのね。もうよしましょうよ、そんな話。こんな薄暗い蔵の中じゃいやですわ。その話はあとにして、今日は遊びましょうよ。あたし、あなたとこうしていれば、平田のことなんか、思出しもしないのですもの」