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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
「まあ御聞きなさい。あなたにとっては、命にかかわる事なんだよ。もし春泥がまだあなたをつけねらっているとしたら」私は恋の遊戯どころではなかった。「僕はまた、この事件の内から、ある不思議な一致を二つ丈け発見した。学者臭い云い方をすれば、一つは空間的な一致で、一つは時間的な一致なんだけれど、ここに東京の地図がある」私はポケットから用意して来た簡単な東京地図を取出して、指で指し示しながら「僕は大江春泥の転々として移り歩いた住所を、本田と象潟署の署長から聞いて覚えているが、それは、池袋、牛込喜久井町、根岸、谷中初音町、日暮里金杉、神田末広町、上野桜木町、本所柳島町、向島須崎町と、大体こんな風だった。この内池袋と、牛込喜久井町丈けは大変離れているけれど、あとの七ヶ所は、こうして地図の上で見ると、東京の東北の隅の狭い地域に集っている。これは春泥の大変な失策だったのですよ。池袋と牛込が離れているのは、春泥の文名が上って、訪問記者などがおしかけ始めたのは、根岸時代からだという事実を考え合わせると、よくその意味が分る。つまりあいつは喜久井町時代までは、凡て原稿の用事を手紙丈けで済ませていたのだからね。