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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

彼はこの世の味気なさ、平凡さにあきあきして、彼の異常な空想を、せめては紙の上に書き現わすことを楽しんでいたのです。それが彼が小説を書き初めた動機だったのです。でも、彼は今、その小説にさえあきあきしてしまいました。この上は、彼は一体どこに刺戟を求めたらいいのでしょう。犯罪、アア、犯罪丈けが残されていました。あらゆることをし尽した彼の前は、世にも甘美なる犯罪の戦慄丈けが残されていました」

彼は又、作家としての日常生活に於ても、甚だしく風変りであった。彼の厭人病と秘密癖は、作家仲間や雑誌記者の間に知れ渡っていた。訪問者が彼の書斎に通されることは極めて稀であった。彼はどんな先輩にも平気で玄関払いを喰わせた。それに、彼はよく転宅をしたし、殆ど年中病気と称して、作家の会合などにも顔を出したことがなかった。噂によると、彼は昼も夜も万年床の中に寝そべって、食事にしろ執筆にしろ、凡て寝ながらやっているということであった。そして、昼間も雨戸をしめ切って、態と五燭の電燈をつけて、薄暗い部屋の中で、彼一流の無気味な妄想を描きながら、蠢いているのだということであった。

私は彼が小説を書かなくなって、行衛不明を伝えられた時、ひょっとしたら、彼はよく小説の中で云っていた様に、浅草あたりのゴミゴミした裏町に巣を喰って、彼の妄想を実行し