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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
始めたのではあるまいかと、ひそかに想像を廻らしていたのだが、果せるかな、それから半年もたたぬ内に、彼は正しく一箇の妄想実行者として、私の前に現われたのであった。
私は春泥の行衛を探すのには、新聞社の文芸部か雑誌社の外交記者に聞合せるのが最も早道であると考えた。それにしても、春泥の日常が甚しく風変りで、滅多に訪問者にも会わなかったという程だし、雑誌社などでも、一応は彼の行衛を探したあとなのだから、余程彼と昵懇であった記者を捉えなければならぬのだが、幸いにも丁度おあつらえ向きの人物が、私の心易い雑誌記者の中にあった。それは其道では敏腕の聞え高い博文館の本田という外交記者で、彼は殆ど春泥係りの様にして、春泥に原稿を書かせる仕事をやっていた時代があったし、彼はその上、外交記者丈けあって、探偵的な手腕も仲々あなどり難いものがあるのだ。
そこで、私は電話をかけて、本田に来て貰って、先ず、私の知らない春泥の生活について尋ねたのであるが、すると、本田はまるで遊び友達の様な呼び方で、
「春泥ですか。あいつけしからん奴じゃ」
と大黒様の様な顔を、ニヤニヤさせて、さて快く私の問いに答えて呉れた。