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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

「ぼくは今日は小遣を持っていないんですが」

「なにぼくだって持ってやしないが、勘定のきくところがあるから大丈夫さ、その点はぼくが、これさ」

天青はこう云って右の手で胃袋のあたりを押してみせた。……そしてあれ以来はじめて二人はその晩いっしょに飲んだんだが、その晩のことだけを切離して紹介するわけにはいかない。

「ブルウタスよ、おん身もか」

こんなふうな気取ったようなせりふを彼は云うてみせたものだったが、それだって一度きりのことではなし、その後は殆んど毎晩のようにつながっては飲んだもんなんで、……彼はいつかしらおれにも勘定のきく家を拵えてくれた。

「文壇の大家だといったってなんだ、いったい谷崎潤一郎がなにものなんだ、笑わせるな、おれは日本の文壇なんぞ相手にしているんじゃねえんだぞ、エ ケ ホモ、おれはこうみえても仲井天青だ」

天青はぎらぎらと熱っぽく眼を光らせ、右とか左とかどっちか側の肩をつきあげながらこう云うんだった。意気軒昂、不屈不撓、孤岩屹立、多少めちゃくちゃな感じかもしれないがおれとしても無関心ではいられなかったさ。

「おれは敗北した、それは認める、しかし、敗北にこそ真実のあるということを知っている者があるか、云ってみろ、われわれの文学精神は破滅を信ずるところに立脚しているんだ、気をつけろ、おれが敗北したまま