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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

にもかかわらずしくじった。かの貪欲なヒステリイ女は社長の奉仕を専有することには少しも躊躇しなかったが、彼の申し出に対してはあたまからせせら笑い、彼の鼻の前でぴしゃりと戸を閉めた。

「あほらしい、あてが金持ってるとでも思ってたんかいな、冗談やあれへん、集金があんじょう集まらな今月はやってゆかれしまへんで、あほらしい、しっかりしとくなはれ」

こう宣告するのをおれはこの耳で聞いたんだが、その仮借のないせせら笑いにはまいった。おれにはなにも直接の関係はないんだが、それでもなんとなく世の中がならし平べったくなるような、たより薄い淋しさを感ぜずにはいられなかったものだった。

――十一月になってからだったが、社長は売れ残って返されて来た雑誌を、社会事業のためにといって市庁のその部へ寄付した。これは次期市議選挙に対する予備工作のひとつだったんだろう、せいぜい三千部ばかりの古雑誌だったが、これを妻君とのひと悶着を恐れて、彼女には知らせずに寄付したものさ。……おれは社長から特に頼まれて取次店の倉庫から市庁舎までの運搬のてつだいをした。

「なあきみ、奥さんには内証やで」

社長はそのときおれを外へ伴れだして、たぶん籠絡するつもりだったんだろう、近くの横丁にある屋台の珈琲店でコーヒーを二杯おごってくれた。