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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

「そうなんだ、ぼくたちが飲んでいたじぶんあれは神戸へ着いたんだ……誰も迎えに出ていやしない、独りぽっちで、初めての土地なんだ……あれは自分で荷物を持って、ところ番地をたよりに、こんな寒い夜道を……」

彼はまた喉をぐっと詰らせた。それから暫く頭をぐらぐらさせ、手を振りまわし、苦しそうに身を揉んだ。

「君はさっきぼくが社長の前にへいつく這って、くどくど憐れみを乞っているのを見たろう、そしてたぶん軽蔑したことだろう、……しかしおれは、もし社長がそうしろと云えば、犬のようにちんちんでもおまわりでもなんでもしたと思う、……おれは馘になりたくはなかった、なんとしても勤めていたかったんだよ」

なにを云うことができよう、おれは憮然としたような感じで、多少当惑もした感じで漫然と腕組みをしていた。

「ぼくはきみに対しても恥ずかしい、冷汗が出てならない」

「――――」

「芸術だとか野心だとか、ひとの作品を罵倒し、ひとを嘲り、笑いとばし、われらの時代だの旗を掲げようだの……嘘っぱちだ、ぼく自身がよく知っている、何もかもでたらめの嘘っぱちだ、ぼくはぼくの才能によって墜ちるところへ墜ちて来たのさ……許してくれたまえきみ、ぼくはいつも恥じていたんだ、ぼくはこれだけの人間なんだよ」