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あめあがる

雨あがる

山本 周五郎

「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页

青空文庫

「――このまえにも、いちど」

「いや今日は違うんですよ、剣術もやったし、弓は五寸の的を二十八間まで延ばしたし、馬は木曽産の黒で、まだ乗った者がないという悍馬をこなしましたがね、それはそれとして話はべつなんです」

藩主は永井氏で信濃守篤明といい、まだ世継ぎをして間のない、二十そこそこの若さだったが、たいそう武芸に熱心であり、また大いに藩政改革をやろうという、新進気鋭の人であった。そして伊兵衛の技倆を見て、ぜひ当家に仕えるようにと云ったが、それは前任者を排して召抱えるのではなく、新たに人増しをするというのであった。

「それだからといって、絶対だとはむろん思いはしないけれども、とにかくこんどはね、そこまで疑うというのもねえ」

「それはそうでございますとも」おたよはそらすように頷いた。「――お代りをつけましょうか、お食事になさいますか」

「そうだね、そう、食事にしましょう」

久しぶりで充分に腕だめしをして、彼の全身は爽快な疲れと満足に溢れていた。そのうえ仕官の望みは九分どおり確実である。これまでの例があるから、妻は信じようとしないし、できるだけそのことに触れたくないようであるが、伊兵衛としてはそれが哀れであり、どうかして(断言はせずに)少しでも安心させてやりたいと願わずにはいられなかった。